年齢を重ねるにつれ、「以前ほどぐっすり眠れない」「夜中に目が覚めることが増えた」と感じる方は多くいらっしゃいます。朝早く目が覚めてしまう日や、眠るまでに時間がかかる夜が続くと、「どこか調子が悪いのではないか」と心配になることもあるかもしれません。
しかし、睡眠のあり方は年齢とともに変わっていく性質があります。変化を知ることで、「これは自分だけではなく自然なことなのだ」と理解でき、気持ちが少し軽くなる場面もあります。
また、日中の過ごし方や寝室の環境など、暮らしの工夫によって、今の自分に合った眠り方を見つけていける可能性があります。すべてを完璧に整える必要はなく、できることから少しずつ試していく姿勢が大切です。眠りについて不安を抱える方に寄り添いながら、心地よい休息につながるヒントをお届けします。
高齢者の睡眠にはどんな特徴がある?

年齢とともに、眠りの深さやリズムには徐々に変化が見られます。これは、体の機能がゆっくりと変化していく流れの一つであり、誰にでも起こり得るものです。ここでは、代表的な睡眠の特徴を分かりやすく整理し、不安を必要以上に大きくせず向き合っていくための視点を解説します。
眠りが浅くなりやすい
眠りの深さは、年齢を重ねるにつれて変化しやすくなります。「夜中に少しの物音でも目が覚めるようになった」「夢を見る回数が増えた」という経験があれば、それは睡眠が浅くなっているサインかもしれません。
たとえば定年後の生活になってから、眠ってはいるものの「ぐっすり眠れた」と言える夜が減ってきたケース。これは生活リズムの変化が影響することもあり、体が新しい環境に合わせて調整している状態と考えられます。
眠りが浅いと感じると、不安になりがちですが、加齢に伴う自然な変化であることがほとんどです。まずは「眠りの質は誰にでも変化するもの」と受け止め、無理に深く眠ろうとせず、眠りについて考えすぎないことも大切です。
夜中に目が覚める回数が増えやすい
睡眠の途中で目が覚める回数が増えることも、高齢期に見られやすい変化の一つです。「トイレに行きたくなる」「喉が渇く」「体勢を変えたくなる」など、理由はさまざまです。
たとえば、長年同じ寝具を使っている場合、背中や腰がこわばりやすく、寝返りの回数が増えることもあります。夜間に体温が低下した際に、布団から足先だけ出てしまい、冷たさで目が覚めるという場面もあります。
深夜に一度も起きずに眠ることが難しくなるのは、体のリズムが変わるためです。一度起きても焦らず、静かに深呼吸をして体を落ち着かせ、自然に再び眠りへ戻れる流れを意識してみてください。
早朝に目が覚めやすい
「まだ起きる時間ではないのに、朝早く目が覚めてしまう」という声は高齢者の方からよく聞かれます。外が暗い時間帯に覚醒することで、十分に眠れなかったと感じ、不安が強くなることも。
たとえば、仕事をしていた頃は朝の決まった時間に起きる習慣があった方が、退職後も身体のリズムだけが同じ時間に動こうとして、早朝に目が覚めてしまうことがあります。これは、生活リズムの変化に体がまだ適応しきれていない状態といえます。
大切なのは、「早く起きてしまった=眠れていない」という考えに結びつけないことです。睡眠時間は人によって適切な長さが異なり、必要な休息を取れている場合もあります。朝に余裕がある生活になった証でもありますので、まずは自然な体の変化として受け止めることから始めてみてください。
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なぜ年齢によって睡眠は変化するの?

年齢を重ねると睡眠リズムが変化していきます。以前と同じ時間に眠っても、朝の目覚めが早くなったり、夜中に目が覚めやすくなったりといった違いに気づくことが増えるかもしれません。これらは、体の働きや生活環境の変化が重なって起こる、ごく自然な現象といえます。まずは、その背景を理解しておくことで、不安を抱えすぎずに向き合いやすくなります。ここでは主な理由を順に整理していきます。
体内時計のリズムに変化が生じる
私たちの体は、体温変化やホルモン分泌を通じて「寝る時間」「起きる時間」を調整しています。この働きが体内時計ですが、加齢により朝型に移行する傾向が見られることがあります。その結果、夜の眠りにつきにくくなる一方、朝早く目が覚めやすくなる場合があります。
たとえば、これまで午前7時前には起きなかった方が、最近は自然と6時台に目が覚めてしまうような変化です。生活に支障がなければ大きな問題ではありませんが、「もっと寝たいのに眠れない」と感じると、眠りへの不安が強まり、かえって睡眠がとりにくくなることがあります。
朝の光を浴びる習慣を整えると、体内時計のリズムが認識しやすくなる場合もあります。起床後にカーテンを開けて深呼吸する。短時間でも良いので庭やベランダに出てみる。そうした小さな行動が、夜の眠りに向かう準備として役立つことがあります。
睡眠を深くする力が弱まりやすい
睡眠には、深い眠りと浅い眠りが波のように繰り返されるリズムがあります。そのうち、体の回復を担う深い眠りは、年齢とともに短くなりやすい傾向があるといわれています。すると、夜にしっかり寝たつもりでも「ぐっすり眠れた感じがしない」「長く寝ているのに、朝の満足感が少ない」という実感につながることがあります。
たとえば、以前は途中で起きてもすぐに眠れた方が、最近はちょっとした物音でも目が覚めてしまい、そのまま眠れなくなるといった声も聞かれます。これは、眠りが浅い時間帯が増えていることが影響している可能性があります。
深い眠りを意識して整える方法としては、日中に体を動かし、夜はリラックスできる環境を作ることが一例です。照明を少し落とし、テレビやスマートフォンの使用を控え、入浴後にゆっくり呼吸を整える。こうした準備が、体を自然に「眠るモード」へ導きやすくします。「眠る力」は日ごろの積み重ねでやさしく支えられていきます。
トイレの回数が気になりやすくなる
夜中に何度か目が覚めてしまう理由として、「トイレに行きたくなる回数が増えた」という変化を挙げる方は少なくありません。年齢を重ねると、腎臓や膀胱の働きが微妙に変化し、尿量のコントロールが難しくなる場面があります。眠っているあいだに分泌されるはずの尿の量を調節するホルモンの働きも弱まりやすいとされており、結果的に夜間排尿が増える要因となります。
たとえば、夕食後に水分を多くとってしまったり、就寝前に利尿作用のある飲み物を選んだ場合は、さらに夜中に起きやすくなります。利尿作用のある飲み物には以下のようなものがあるため、チェックしておくとよいでしょう。
利尿作用のある飲み物
- コーヒー
- 紅茶
- 緑茶
- ウーロン茶
- 栄養ドリンク
- アルコール類
夜間に眠りが途切れると、その後の睡眠が浅くなり、朝の疲労感につながる場合もあるため、無理なく工夫する意識が大切です。
具体的には、就寝の2〜3時間前から水分量を調整する、カフェイン飲料の摂取時間を見直す、トイレへ行きやすい動線を整える、といった対策があります。「眠れないのは年のせい」ではなく、生活の中で調整できる視点を持つことで眠りの満足感を支えやすくなります。
生活リズムの変化が影響することも
年齢を重ねると、仕事や家庭の役割が落ち着き、日中の活動量や外出頻度が少しずつ変化することがあります。これは自然なことですが、生活のリズムがゆるやかになることで、体内時計がずれやすくなる場合があります。たとえば、朝の起床時間が遅くなったり、日中に横になる時間が増えたりすると、夜になっても眠気が十分に高まらず、寝つきが遅れることがあります。
また、「時間に追われることが少なくなる」という良さがある一方で、動く機会を意識的に作らないと体が昼と夜の切り替えをしづらくなることもあります。朝の光を浴びる、食事時間を整える、軽い散歩を取り入れるなど、暮らしのリズムに小さな軸があると、眠りのバランスは整えやすくなります。
大きな変化を求めなくても、今の生活の中で少しずつ調整することで、自分らしい睡眠リズムが育っていきます。焦らずに、できることから続ける姿勢が大切です。
よくある睡眠の悩みと向き合うためのヒント

睡眠の変化は、多くの方が経験する自然な過程ですが、「昔のようにぐっすり眠れない」と不安が募ると、眠ろうとすること自体が負担に感じられる場合があります。ここでは、よく耳にするお悩みを取り上げながら、今の睡眠と無理なく向き合うための考え方や、生活に取り入れやすい工夫を整理しました。できることから少しずつ、ご自身のペースを大切に進めていきましょう。
「眠れなければ駄目」を手放す
「しっかり眠らないといけない」「早く眠らなければ」という思いが強くなるほど、脳は緊張し、かえって眠りが遠ざかってしまうことがあります。
たとえば、夜中に目が覚めたとき、「眠れない」と焦りを感じる代わりに、「少し休む時間が持てた」と視点を変えるだけでも、心の負担は軽くなります。ベッドの中で深呼吸をしてみたり、目を閉じて体の力を抜くことができれば、体はきちんと休息を取っていると考えてよいのです。
100点の睡眠を毎日求めなくても大丈夫です。「今日は60点くらいかな」と受け止める柔らかさが、結果的に眠りを育てていく助けになります。
昼寝をする場合は夜の睡眠を妨げない工夫をする
日中に眠気を感じることは、年齢に関わらず自然なことです。短時間の昼寝を上手に取り入れると、頭がすっきりし、その後の過ごしやすさにもつながります。ただし、長い時間の昼寝が続くと夜の眠りに影響する場合があるため、ほどよい調整が大切です。
意識したいのは、時間とタイミング、そして姿勢です。20〜30分以内を目安にし、午後3時より前に取り入れると、夜とのバランスが保ちやすくなります。ソファや椅子に腰掛けたまま軽く目を閉じるだけでも、脳の休息につながります。横になってぐっすり眠る必要はありません。
「短い休息で頭が軽くなる」感覚が得られたら、それだけで十分です。昼寝は「しっかり眠るための準備」と考えると、必要以上に気負わず続けやすくなります。その日の体調に合わせて柔軟に取り入れながら、夜の睡眠と心地よく寄り添っていきましょう。
適度な運動で生活リズムを整える
日中に体を動かすことは、体内時計が整いやすくなる助けになります。激しい運動でなくても大丈夫です。散歩やラジオ体操、買い物ついでの歩行など、日常の動きが自然と睡眠のリズムを支えてくれます。
たとえば「午前中に少し外を歩く」だけでも、日光が脳に朝を知らせ、夜に眠気を感じやすいリズムにつながります。イスに座ったまま足踏みをしてみる、背伸びをゆっくり続ける、といった家の中での手軽な動きも取り入れやすい工夫です。
呼吸が乱れるほど頑張る必要はありません。体調にあわせて「今日はここまで」と決める柔らかさが、習慣化の近道になります。動いた分、夜の休息が心地よく感じられる日が少しずつ増えていくはずです。
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リラックスできる寝室環境を整える
眠る場所の環境づくりは、安心して休むための大切な土台です。室温が少し低すぎたり、光や音が気になったりすると、睡眠が浅くなることがあります。
目安として、就寝時の室温は冬なら18〜22度前後、湿度は50〜60%が保ちやすいとされている温度です。エアコンや加湿器を使いながら、心地よい環境に近づけてみてください。枕の高さや布団の重さも、首や肩の負担に影響します。いつもより眠りにくいと感じた日は、寝具を少し見直すだけでも体が受ける圧をやわらげられることが可能です。
睡眠は「安全に体を預けられる空間」で深まりやすくなります。小さな調整を積み重ねながら、自分に合った寝室環境を整えてみてください。
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寝る前の過ごし方を見直す
夜の時間の過ごし方は、眠りの質にやさしく影響します。たとえば、就寝直前までテレビやスマートフォンの画面を見続けていると、光の刺激で脳が覚醒し、眠気が遠ざかってしまうことがあります。そのため、眠る前は少しずつ体と心を休息の方向へ切り替える工夫が大切になります。
部屋の明かりを少し暗くしてみる、体を締めつけない衣服に着替える、ベッドに入る前に深く呼吸をして肩の力を抜くといった小さな準備でも、脳は「休む時間」を自然と感じ取りやすくなります。また、温かい飲み物をゆっくり口にする、短い読書や優しい音楽に耳を傾けるなど、心の緊張を少しずつほどいていく方法も有効です。
「明日に向けて力をためる時間」と捉えれば、夜の過ごし方そのものが心地よい習慣になります。無理をせず、自分にとって落ち着けるペースを大切にしながら、静かな眠りへと導く準備を整えてみてください。
負担になりすぎに注意!気をつけたいことをチェック
良質な睡眠を取るための対策は、心と体の健康を支えるうえで大切です。ただし、自分で対策を進めているうちに、不安や負担が増えてしまうこともあります。ここでは、安全に続けるための視点を整理しました。気になる変化がある時ほど、一人で抱え込まないことが大切です。安心して取り組むためのヒントとして、役立てていただければと思います。
強い不安や急激な変化が起きたら専門家へ相談する
睡眠の変化は珍しいことではありませんが、なかには体からの重要なサインが隠れている場合もあります。たとえば急に眠れなくなった日が続いたり、夜の不安感が強くなる、胸の違和感や呼吸のしづらさを伴うなど、いつもと違うと感じることがあれば、早めに相談先を探すことが安心につながります。
「もしかすると」「念のため」この程度の気持ちで十分です。まずはかかりつけ医や地域の健康相談窓口など、話しやすいところへ声をかけてみてください。人に言葉にしてみると、状況を客観的に捉えられるようになり、不安が緩やかになることもあります。
睡眠は心身の状態を映し出す鏡でもあります。違和感に気づいた段階で立ち止まり、適切な支援を得ることが、自分を守る第一歩となります。
薬の利用は自己判断しない
睡眠に関する薬は種類も多く、作用の仕方もそれぞれ異なります。自己判断で始めたり、量を変えたりすると、かえって体のバランスが崩れてしまうことがあります。
「昨日より眠れていない気がする」不安が続くと、どうにかしたい思いが強くなるものですが、薬は体調や生活リズムを含めて専門家が判断することが重要です。たとえば飲み合わせによっては、ふらつきや日中の強い眠気が出やすくなることもあるため、特に注意が必要です。
服用中の薬がある場合や、新たに薬を検討する際は、必ず医師や薬剤師に相談をしてください。安心して眠りに向き合うためにも、支えてくれる人の力を上手に借りながら取り入れることが大切です。
家族や周囲の人と話す機会を増やすのもおすすめ
睡眠についての悩みは、他の人には伝わりにくいこともあります。しかし一人で抱え込むと、「眠れないこと自体がストレスになる」という悪循環が起こりやすくなります。
家族や身近な人に、「最近眠りにくい日がある」とさりげなく伝えるだけでも、気持ちが軽くなることがあります。また、夜間に起き上がる回数が増えた場合には、転倒などを防ぐためにも周囲が状況を知っておくことが安心につながります。
話すことで、思わぬ助言が得られることもありますし、「同じ経験がある」と共感が得られるかもしれません。睡眠は生活全体とつながっているものだからこそ、人とのつながりが支えになるのです。小さな違和感を、言葉にすることから始めてみてください。
まとめ
高齢になるにつれ、睡眠のリズムが変化することはごく自然なことです。眠りが浅くなったり、夜中に目が覚めたりしても、それだけで心配する必要はありません。大切なのは、今の状態をきちんと受け止め、自分に合った過ごし方を見つけていくことです。
日中に軽く体を動かす、寝室の環境を整える、眠る前に心を落ち着ける時間を持つ。どれも小さな工夫ですが、積み重ねることで、夜の休息が心地よく感じられる日が少しずつ増えていきます。
そして、不安が続くときや体調に急な変化があるときは、一人で抱え込まず専門家へ相談することが安心につながります。眠りとの上手な付き合い方を、無理のないペースで続けながら、明日を気持ちよく迎えられる日々を整えていきましょう。
